「あれ?ない?あれ!ない!」今日は友人宅でランチ会である。ガパオライスやヤムウンセンなどの手作りタイ料理を御馳走になり、おしゃべりに花が咲いたところでお開きにしようというときに、私は気づいたのだ。鍵を失くしてしまったことに。友人の家のリビングを、それこそひっくり返すようにして皆で探したけれど、鍵は見つからなかった。「ここに来る前に、どこかに寄らなかった?そこで落としたんじゃない?」と聞かれた私には、思い当たる場所があった。友人への手土産を買おうと、デパートに寄ったのだ。もしかしたらそこにあるかもしれない、と友人がそのデパートに電話をかけて聞いてくれたのだが、結局なかったようだった。そうしている間にも、小学生が帰る時間が迫ってきている。我が家は夫の両親と同居しているので、家に入れないということはないけれど、無くした鍵を拾った人が、どうにかして我が家を突き止めることだって、ないとは言えない。「交番に行ってみたら?」という友人のアドバイスを受けて、ダメ元で交番に行ってみることにした。財布なら拾った人が一割もらえるというけれど、鍵なんて届けたって届けるメリットなんてない。届いているわけがない。――と思ったのだが。
結論から言うと、交番に鍵は届けられていた。大学生らしき若い男の子が交番に届けてくれたそうだ。だけど届けるとすぐに去ってしまったため、連絡先が分からず、お礼を言うことはできなかったのが残念だ。しかも大学は駅から交番への方向とは反対方向にあるため、その男の子はわざわざ戻って鍵を届けてくれたのだ。私はそれを聞いて、「どうかその彼にいいことが起こりますように」と願わずにはいられなかった。
もしこれから鍵を拾うことがあったら、私も見て見ぬフリなんかせず、必ず交番に届けよう。戻ってきた鍵についている守り猫のキーホルダーを握りながら、誓ったのだった。